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第五話 神威の実力②

last update Dernière mise à jour: 2025-06-02 16:51:08

「さあ、次は俺の出番だぜ!」

 張り切って笑顔を見せる宇随。

 その表情から、わくわくしているのが伝わってくる。

「頑張って」

 雛が声をかけると、宇随は満面の笑みを向けた。

「おうよ!」

 ブンブンと腕を振り回しながら、自分の試合会場へと向かっていく。

 そんな宇随を微笑ましく見つめながら、雛もその区画へと向かった。

 試合会場へ到着すると、もう既にたくさんの観客が集まっており、人で埋め尽くされていた。

 宇随の試合がよく見える位置へ雛が移動していくと、誰かとぶつかった。

「すみません」

 ぶつかった相手を見上げると、驚いた表情の神威と目が合った。

「また君か」

 あきれたような表情の神威を、雛が大きく開いた目で見つめる。

「……中村神威さん!」

 雛が叫ぶと、神威は怪訝そうな表情を向ける。

「……なぜ、そんなに驚く?」

「先ほどの試合見させてもらいました。素晴らしかったです!」

 雛が少し興奮気味に、キラキラした瞳を神威に向ける。

 何を言っているのかわからないというように眉を寄せる神威。

「どういうことだ? 俺が恐くないのか?」

「恐い? よくわかりませんが、すごいと思いました。

 あんな速さで動ける人、今まで見たことありません。

 それに、あの力を受け止め弾き返せるなんて、どれほどの強さを秘めているのですか? あれは全然本気じゃないですよね?

 あなたの本当の強さを見てみたい、あなたと戦いたいって思いました!」

 力説する雛に圧倒され、神威は何も言わず黙り込む。

「あ、すみません、いきなりこんな、失礼ですよね。

 でも、あなたのことすごいって思ったのは本当だし、戦ってみたいって思ったのも本当です」

 雛は真剣な表情で神威を見つめる。

 神威もそんな雛をしばらくじっと見つめていた。

「君、変な奴だな。俺のことを恐れ、関わりたくないって奴は多いんだが……。

 ましてや勝負したいなんて、初めて言われた」

 神威が少し微笑んだ。

 初めて見るその表情に、雛は見惚れてしまった。

 とても優しくて、綺麗な笑顔……。

 雛はそんな感情を抱いてしまった自分に驚く。

 神威はすぐに真顔へと戻った。

「なんだ? じっと見つめて」

「いや、笑顔が素敵だなあって」

 雛は素直な感想を言った。

 すると神威の様子が急変する、目が泳ぎ落ち着かない。

「な、何を。君は本当に変な奴だ。

 ……まあいい。それより、君の試合はまだなのか」

 神威はなぜか急に話題を変えてきた。

「はい、私は次に行われる試合に出ます。もしよければ見にきてください」

 雛が笑顔を向けると、神威は顔を背け咳払いするとこう告げた。

「気が向いたらな」

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